みんげい おくむら トップページ > 民藝に関する読み物 > 2017年初冬 コーカサスの手仕事を求めて(Vol.1) > アルメニアの木工(Vol.3)
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アルメニアの木工
アルメニアの女性の手仕事の話をしたので、次はアルメニアや、コーカサスの男性の話をしたいと思う。
木工やかご編み、絨毯の仕上げなどは男性の仕事だった。
アルメニアの首都エレバンの市場で見かける男たちは、よく映画で見かけるようなロシア人の殺し屋、そのものだ。
だいいち、体つきが日本人とは比べ物にならないのだ。
オリンピックで見かけるレスリングの強そうな人、そのもの。
よく見てみるとなかなか彫りが深く、味わい深い顔をしている。
笑顔は案外優しい。
生き様が顔に出る、と言うのだろうか。
激動のソビエト時代を生き抜いた、高齢の方達の何とも言えない表情は見るたびグッとくる。
ワイン発祥の地だが、ウォッカやそれに準じるようなスピリッツ系の酒が多いコーカサス。
夜、街に繰り出せばだらしない酔っ払いがわんさかいるだろうと思っていたが、
実はあまりそういう場面には出くわさなかった。
街のちょっと良いレストランにも行くし、いわゆる場末感のある店にも行く。
しかしクダ巻いてウォッカを煽っているような人にはついぞ出会えなかった。
これは実はちょっと残念。酔っ払いとトラブルに巻き込まれるのは残念だが、
街の愛すべき酔っ払い達とちょっとだけ飲み交わしたかったのだ。
田舎に出ると、風景同様、男達の素朴さは増すし、
あまり大柄な男ばかりじゃないのだな、と少し安心する。
アルメニアの田舎。
エレバンという首都でさえ、かなりこじんまりしているのでどこからを田舎というのかそもそも微妙な問題かもしれないが、
便宜上エレバンから離れたところ、とぐらいにしておこうか。
車でエレバンから離れていくと、時折集落、町、が現れる。
何らかの産業がある(あった)のであろう町だったり、どうしてこんなところに、というようなところだったり。
どこもものすごくこじんまりとしていて、
そういう何でもない、ガイドブックには絶対乗らないような町に滞在するのが好きな自分としてはグッとくる。
例えば、ある山あいの町では突如スニーカー工場が現れた。
そんなに大きな工場じゃない。
たぶん、数十人が働けばいっぱい、という感じだった。
ソビエト時代のもので、今も稼働しているかどうかすらわからない。
果たしてそこで作られた靴はどこへ運ばれて誰の足を通ったのか。
どのくらいの生徒がいるのかわからない、近くの小学校らしい建物と合わせて心に残っている風景だ。
またある湖畔の町は、夏場はものすごく賑わうのだろうけど僕らが訪れた時は気温がマイナス。
ものすごく閑散とした表情ながら、
週末だから湖畔の教会へ向かう道にはいくつかのお土産屋が開店していた(大半は閉まっていたが)。
お店の人は近くの町からやってくるのだろうか。
田舎の何ともない風景が、どうしてか強い記憶として残っていたりする。
理由など何もないと思うのだが。
文章:奥村忍(みんげい おくむら) / 写真:在本彌生