熊本の民窯小代焼ふもと窯の窯出しに伺いました。伝統の登り窯で焼かれる小代焼と井上尚之のスリップウェア。



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小代焼ふもと窯 2011年5月窯焚き


2011年5月14日。
好天の小代焼ふもと窯を昼過ぎに訪れました。
今回は窯焚きと窯出しを見学させてもらいます。
ここまでに作り上げてきたものが器として皆様の手に届くものになるか、勝負の時です。





前日に窯の一番前に日が入り、窯が暖まります。
この日は朝から一番手前の部屋に火が入り、大体一部屋で3.5時間くらいかけて
温度を上げ、具合を調整していきます。

私が到着した頃は丁度2番目の部屋の終盤。

ふもと窯の井上尚之さん、兄弟子の真弓さん、お弟子さん2人の4人体制で
窯焚きをしています。

福岡から見えたふもと窯のファンのご家族が見守り、近くでは尚之さんの
子供達が遊ぶ元気な声が聞こえてきます。


ここは熊本県の県北に位置する荒尾市。
それも山側です。
都会の我々からすると子供達は自然に囲まれた贅沢な環境で育っているように見えます。

5月の良い気候の熊本ですが、窯の周りはさすがに熱気でいっぱい。
近寄るだけで汗ばみそうな、そんな空気です。



和やかながらも淡々と作業が進んで行きます。

お弟子さんや尚之さんが交代で、部屋の横からリズミカルに薪を投げ入れていきます。
通常、この部屋の横の出入り口は開いていますが、窯焚きの時は粘土を使って閉じます。
そこに少しだけ小さな穴を開けておき、そこから薪を投げ入れます。








投げ入れては閉じ、投げ入れては閉じ、と3.5時間くらい繰り返し、
ようやくその部屋の作業が終わります。

窯は奥に長いので、力加減を調節しながら、手前、中、奥、とうまい具合に投げ分け、
窯の温度の上がり具合を見定めていきます。

尚之さんや真弓さんが時折、厳しい表情で窯の中を覗き込み、火の具合を確認します。

薪を投げ入れる人、投げ入れる薪を運んでくる人、窯の温度を確認する人、
これを一日中繰り返すわけですから、集中力も体力も相当に消耗します。

尚之さんはこの窯焚きに集中するため、この窯焚き期間は他の作業の手を
一切止めて、この作業のみに集中すると言っていました。

それまでの作業がここで決まるのですから当然と言えば当然かもしれませんが、
見ているこちらもなんだか力が入ってしまう、そんな時間です。



今回の窯焚きは6つある部屋の4番まで。朝から1番を焚き始め、
夜には4番が終わる計算です。





普段は賑やかな作業場も今日は静かです。

作業も終盤。


そして、夜の8時半過ぎ、4番の部屋が閉じられ、無事に本日の窯炊きが終了となります。

4番の部屋を完全に閉じ、窯は丸二日間かけて徐々に冷まされていきます。
そうすると次はいよいよ楽しみな窯出しとなります。






お酒を飲む人が少ないふもと窯では窯焚きが終わると尚之さんのお母さん、お姉さんら
家族が用意した食事を皆で取り囲んで一日の労をねぎらいます。
この席には窯の主であり尚之さんの父でもある泰秋さんも加わり、
窯の具合などを聞きながら和やかに食事が進んでいきます。


熊本の郷土料理もあり、大変美味しい家庭的な料理でした。



小代焼ふもと窯 2011年5月窯出し

窯焚きから2日間の自然冷却を経て、いよいよ5/17窯出しの日を迎えました。

この日も快晴。
心地よい五月の朝。

まだ熱気が強い4番目の部屋を除く3部屋の入り口の粘土が取り除かれました。






その作業の側から、窯の中では「パリパリ」「カンカン」と独特の高温のハーモニーが聞こえてきます。
まさに、その瞬間貫入(かんにゅう)と呼ばれる器の表面のガラス質にヒビが入っている音です。

その音色の美しさを味わうため、部屋の中に入ってみますと、部屋の中では
更にその響きが増幅して美しい音色となります。

とはいえ、窯の中はまだ暑く、全くのサウナ状態。
そうそう長くも入ってはいられません。


部屋の中の壁、器の積み上げるための窯道具、器自体、これらが熱を帯びており、
下手をすれば火傷しそうな温度です。

皆、手に手袋をし、慎重に器の取り出しにかかります。

小代焼の伝統的な焼物から、尚之さんのスリップウェアまで
徐々に徐々に出てきます。







ワクワクしながら覗き込みますが、少し今回は焼きが強いようです。

釉薬によっては溶けすぎ、棚板に釉薬が垂れてくっついてしまっているものが見られます。






焼きがイマイチなもの、これは!という良いもの、続々と出てきます。






マグカップ類は釉薬の溶けが大きく、棚板に張り付いてしまっているものが多数。
取れないものは泣く泣くトンカチで叩いて剥がされていきます。
これらは売り物にはなりません。


3つの部屋の器が取り出されると、すぐに次は磨きの作業に取りかかって行きます。
6つの部屋のうち3つ(4つ目の部屋は暑いので取り出しは翌日へ)とはいえ、
個数にすると相当な量。

高台などを綺麗にする作業をどんどんやって行かねば、窯出しは終われません。

そんな作業の側から気になったものを手に取り、当店用に選んだり、
尚之さんに色々と気になった事を聞いてみたり。

兄弟子の真弓さんにも色々と教えて頂きます。


こうした器の配り手としては、まさに器が出来上がった瞬間と、
作り手の想いを確かめられるこのような瞬間は最高の瞬間とも言えます。

毎度窯出しを訪ねるわけにはいきませんが、
一度は訪ねるからこそ、信頼や安心感が生まれます。








日常で使われることを願い、作られるふもと窯井上尚之さんの器。
そんな器が生まれた瞬間の話でした。