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木漆工とけし


木漆工とけし 拭き漆仕上げ イタジイの器



木漆工とけし、渡慶次夫妻と出会ってから、うちでそれを扱うに至るまでに、
なぜ数年の歳月を必要としたのか。

それが同時に、イタジイという沖縄のやんばる(北部)に広範囲に生息する雑木を用いたシリーズを
うちで扱い始めるに至った経緯そのものでもある。


木漆工とけし



イタジイのシリーズ以前



2012年の冬、初めて工房を訪れた時。
工房を見て、器を触って、喋って、素晴らしい人とものだと僕は感じた。



木漆工とけし


彼らが辿ってきたものづくりの経緯は、
沖縄県工芸指導所でそれぞれ木工課と漆課を卒業した後、
渡慶次弘幸君は輪島の桐本木工所に弟子入り、年季明け後そのまま桐本木工所勤務。木地師として独立。
渡慶次愛ちゃんも輪島で福田敏雄氏に師事、年季明け後に福田氏と、赤木明登氏の元で勤務。塗師として独立。

というある種、現代漆作家を代表するような親方のもとにあった確かな実績である。


そして彼らが学びを活かし、沖縄で工房を立ち上げ、
県産の木材を活かした、木漆工とけしの仕事をスタートさせる。
偶然にも僕がお店を始めた2010年と同じ年のことである。


彼らは全く職人として理想的な道筋を、自分達の努力で切り開いてきた訳なのだけど、
その頃僕が触らせてもらった器は、どこかうちの扱う器と同じテーブルに並べた時、
仲が悪くはないのだけど、特別仲良しになりそうな感覚がなかったのである。


おそらく、それは渡慶次君達が敬愛する沖縄の陶工大嶺實清さんのような器であればよく馴染んだのだと思う。
(実際、彼らの工房には大嶺工房の器が多い。)


木漆工とけし



大嶺さんは北窯の松田共司さん米司さんの親方であることはうちのお客様も知っている人が多いと思う。
沖縄の現役の作り手としては、技術も理論も持ち合わせた素晴らしい方だ。


僕なりにその時のことを言葉にするとするならば、
どこか手仕事の「雑味」に惹かれる僕の意識がそこにあったのだと思う。


北窯のような手仕事の量産の窯で、味わいだと感じられる風合い、魅力が、
彼らの漆の器と、一部調和するところはあるけれど、
調和の範囲が極端に小さかったのだと思う。
これは北窯のみならず、うちで扱うものの大半がそう感じられた。

その結果、全く作り手としても友人としても信頼出来るが、
うちのお店の棚には並ばなかった、という状況が約2年続く。
下手に並べてしまって、お互いの思うところがうまく噛み合なかったらきっとさぞ不幸な結果だったろう。


あまりそのことについてお互い突っ込んだ話をしたことは無かったが、
個人的感覚として彼も僕の扱い品を見て、同じようなことを思っていた、と思っている。



イタジイのシリーズ誕生



そうこうしている間に、彼の工房にはいくつかの変化があった。
少し若い木地師の見習いが工房に入ったのだが、1年経たずに辞めてしまったのだ。

彼は夫婦二人で工房をやっていくべきなのか、弟子、あるいは職人を迎え入れ、
名実ともに工房としての体制を整えていくべきなのか、かなり真剣に悩んでいただけに、
さすがにショックを受けていたようだった。


僕も、工房としての量産のシリーズが確立すれば、価格面でもよりこなれて、
うちの扱い品に近づくのではないかという期待をもっていたためこれは実に残念だった。



それからしばらくして、「見せたい物がある。」と電話越しで言われ、
沖縄訪問時に工房を訪れた。それがイタジイのシリーズの始まりだ。


木漆工とけし


イタジイは彼らが暮らす、沖縄本島北部には豊富に自生し、クセは強いものの、
拭き漆といって、木の表情を見せる、そして塗り重ねる回数がそれほど多くなくて良い、そんな技法に向くと言う。


慎重な彼らだから、既に上の写真の椀のように、サンプルとして作ったものを使い込んで、
その様子をしっかりと確認した上だった。
彼はそれを2014年晩秋の大阪の漆専門のギャラリー「舎林」さんでの個展に出す、と言い、
僕はそれを見に行くことを約束した。
(もちろん広い意味の同業の大先輩のお店なので事前にそういった理由で伺うことは承諾頂いた。)


下の写真がその時のもので、僕が行った渡慶次君の在店日初日は、
平日でありながら、漆好きのお客様が幅広い年齢で、皆さんゆっくりと在店され、
次々にこの新作シリーズをお求めになっていった。


木漆工とけし


夕方には岡山へ向かう、二人の師でもある赤木明登さんも訪れ、賑やかな時間となった。
全て、舎林のオーナー山田さんのお力とご人徳のよるものであることはもちろん言うまでもない。
(上の写真:左から渡慶次君、赤木さん、山田さん)


上の写真右はその時に出されていた大きな石皿で、これが本当に素晴らしかった。
(木で石皿、というのも不思議なもんだが、石皿然としたすばらしい趣があった。)


実は、イタジイのシリーズと時を同じくして、工房には愛ちゃんの元同僚の塗師が加わっている。
実力ある2人の塗師が揃い、現在、工房の生産力のボトルネックは
渡慶次君の木地作りになっていることは、以前よりも頼もしいことである。


イタジイの器は、沖縄の台風にも負けない(時々負けているけど)木々が、
その美しさをほんの少し残し、穏やかな表情を見せる。
そして木漆工とけしの器の中では比較的「重い」器だ。
他の木に比べて重く、「しっかりとした」感が民窯の器に慣れた僕には実に心地よい。


木漆工とけし


もちろんこのシリーズの良さは「雑味」という意味ではないが、
この特有の重さ、木の肌の表情、そして手数を加えすぎずしかし高い技術が組み込まれた、
この品にこそうちで扱うのにぴったりだと自負出来る感覚がある。


民窯の器にも、中国やアジアの雑器にもよく似合う。
当店に似合うシリーズだと思う。


木漆工とけしにはまだまだ色々な仕事があるけれど、まずはここから初めてもらいたい。





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