愛知県碧南市(三河地方)で伝統的に作られてきた七輪。現在唯一の作り手である杉松製陶さんの訪問記です。




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三河の黒七輪作りの見学(杉松製陶)
杉松製陶


2012年5月、初夏のような気候の折、
名古屋から電車を乗り継ぎ、杉松製陶さんのある碧南市までやってきました。

近づくにつれ、瓦の製造所が車窓に見え、ここが日本の瓦の一大産地であったことを
思い返し、なんだか胸が高まります。


杉浦さんの運転で工房まで。「窯詰め作業中だから、適当に見てて。」と言われ、
一通り七輪作りの説明を受けた後、杉浦さんは作業に戻りました。

それもそのはず、現在この黒七輪作りは日本でただ1軒。そして職人もただ1人。
繁忙期にはパートさんが手伝いに来たりはするそうですが、
この七輪を作れるのは杉浦さんただ1人なのです。


黒七輪



黒七輪が出来るまで。


黒七輪は、一般的な七輪と同じく、ベースは能登半島で取れる珪藻土「けいそうど」と呼ばれる土を使います。
この土は、抜群の通気性と断熱性を保ちます。
近年では除湿剤に使われたり、建材として建物の壁面に使われたりする注目の天然素材ですが、
七輪の多くはこの土を使って作られます。

黒七輪
※左:素材となる珪藻土。右:黒七輪の内側となる珪藻土の層。型で作られます。


珪藻土の内側の層を作るのと別に、ろくろで外側になる三河土の層も作ります。
三河土は水や衝撃に強く、珪藻土の弱い部分を補います。
三河の黒七輪が優れているのはこの2層構造だからなのです。

そして、この層を天日で乾燥です。板がしなるほどの、しっかりとした七輪のベースが出来上がります。

黒七輪
※左:外側の三河土の層。右:珪藻土の層が天日干しされています。


乾燥が終わると、外側の層には「風戸」が作られます。
普通の七輪はここが金具で出来ていますが、ここが土で出来ているのが三河の黒七輪の大きな特徴。

火力調節の性能が上がるのと共に、普通の七輪はここが壊れてしまうことが多いのに対し、
黒七輪はよっぽどぶつけたりしなければここの部分が壊れてしまうことは無い、と言います。

独自の道具を使って、乾燥しかけの粘土から風戸を作っていきます。職人技です。
杉浦さんは現在3代目ですが、この作り方は初代の頃から変わらぬものと言います。

黒七輪
※左:風戸作りの道具。中:これが「風戸」。右:初代が作っていた七輪が大事に工房に飾られる。



黒七輪たる「黒」の理由


黒七輪は三河土が黒いから黒七輪なのではない。

乾燥させた三河土を黒くするから黒七輪になるのだ。

黒七輪が手元に届くと、そのほれぼれするような黒に驚く。
この黒は、まず乾燥が進んだ外側の層に、
炭を塗ることから始める。

刷毛で、薪炭を粉にし、それを泥状にしたものを塗る。
何度も塗り重ねていく。

黒七輪
※左:炭が泥状になったもの。中:炭を刷毛で塗る作業。右:塗られたものはとても美しい。


そして、そこに那智黒石という柔らかく艶のある石を塗っていく。
するとあの艶が出てきて、七輪がピカピカと輝き始める。

黒七輪
※左:那智黒石。中:まずは七輪をひっくり返し上を磨く。右:フチ部分は手で石を持ちリズミカルに作業。


ここまでの工程を経て、七輪は窯へ運ばれていく。



黒七輪を焼く「だるま窯」


黒七輪はだるま窯と呼ばれる、瓦を焼くのに使われる伝統的な窯。
窯の両側に焚き口があり、真上に煙突が長く伸びています。

ここに七輪の場合は約400個ほど入るそうです。

大きさの大小はあるものの、七輪がぎっしりと窯詰めされる様子は圧巻です。

この窯は約700度の温度でじっくりと焼かれる。

黒七輪
※左:ろくろ場から窯へリアカーで。中:あと20個〜30個で一杯に。右:作業をしていると体中に黒い汚れが。


こうして焼成された七輪は、ゆっくりと冷まされた後、
外側、内側を粘土で固め、結合され、完成される。

黒七輪
※左:ぎっしり窯に詰まった七輪。中:内側もそれ自体焼成される。右:結合され、無事に命が吹き込まれた七輪。


二層であることと、風戸まで同素材で作ったこと、そして何よりもこの色。
インパクトは強いが、それが実用と機能から生まれたという素晴らしい道具。

願わくば後継者が見つかり、長く続いてほしい手仕事。
どうかこの道具を正しく広めていきたいと願うばかりでした。


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